人形って,怖くありませんか?
特にあの交通安全の婦警さんが持ってくる,「ケンちゃん」。
あのカタカタ動く口元,キョロキョロ動く目・・・
見ているだけで某銀華中のように腹痛で帰りたくなってしまう。
こんな私,は大阪の横断歩道の信号が変わる早さについていけず,
交 通 事 故 に 遭 い ま し た
愛のけんちゃん人形
「アホやなぁ,。今どき幼稚園児でも横断歩道渡るときもたつかへんわ」
利き手に包帯ぐるぐる巻きの私を見て,謙也はそう言った。
「うるさいな謙也!東京は大阪より人間のリズムが遅かったんだよ!」
「リズム?あー,神尾やったか?あいつ。たしか決め台詞が」
「「リズムに乗るぜ!!」」
「恥ずかしくてさすがの浪速のスピードスターでも言えへんわー」
「そうそう,ってオイ!」
つい,習慣でのり突っ込んでしまった。
するとコイツ・・・忍足謙也はにやりと笑って
「は調教しがいがあるで。金ちゃんはなんやズレてるし,
ユウジと小春ちゃんは相手してくれへんし,千歳はなんやかまってくれへんし,
蔵之介は毒手出そうとしよるし・・・」
「銀ちゃんと財前くんはノーカウントなんだ・・・」
「50点。『調教』のほうにも突っ込まなアカンで」
「お前はM-1の審査員か!」
「ふふっ,さっすがユーシが自慢することあるで。氷帝にはもったいない言うとったわ」
「忍足侑士も忍足謙也も勝手に相方にするなよ!」
「まーええやん。いっそのこと俺の嫁に来るか?」
「っ・・・馬鹿者!!」
「ひどいわぁ,一世一代のプロポーズやで!?罰としてけんちゃん人形の刑や!!」
「ひっ!?」
この前謙也と帰った(ついて来られた)とき,食い倒れ人形にびびった私を見て,
人形が弱点だと知ってしまったらしい。
なにやら謙也はどこからか取り出した物体Xをごそごそとやっている。
「こんにちはちゃん!ボク,けんちゃん!」
裏声で,謙也はマペットのけんちゃんの口をぱくぱくさせた。
あまりの驚きに声も出せないでいる私とつぶらなガラス玉の目を合わせて
「どーしたの?ちゃん。もしかしてボクのこと、怖い?」
と言いながらけんちゃんの手でわたしのほっぺをぺしぺし叩いた。
「謙也、アンタ・・・何してんの?」
「緊急交通安全集会や。決まってるやろ?」
真面目な顔で謙也が言った。
「じゃ、始めるでー」
どうやら止めても無駄らしい。謙也はやたら楽しそうに裏声で話す。
「ボクけんちゃん!今日は交通事故に遭ったちゃんのために、けんちゃんと謙也くんで交通安全集会をやるよ!拍手!」
私はなりゆき上拍手をした(させられた)。
「謙也くん、横断歩道はどんな風に渡ればいいの?」
「けんちゃん、それはな、浪速のスピードスターのごとく、颯爽と華麗に渡ればええんや」
「どんな渡り方だよ。ってかアンタは何がしたいんだよ」
私は2人一役で楽しそうに話す謙也に突っ込んだ。
「えー、何ってけんちゃんで遊んでるんやがな。未来の子育ての練習やん」
「子育てって、誰の?」
意外な答えに、私は真面目に質問してしまった。
「そりゃ決まっとるで!オレとの・・・へぶっ」
私は謙也の顔面にペンケース(金属)をたたきつけた。
「いつ!?いつ私がお前と結婚するって言ったよ!?」
「最初に逢った時に言うたやんか」
「は?」
謙也は額をさすりながら話し始めた。
〜謙也の回想〜
「なぁ、お前がユーシの言っとったなんか?」
「いきなり呼び捨てされる筋合いはないけど、そうだよ」
「へ〜ぇ、可愛いやん。なぁ、オレと遊ばへん?」
「なんか軽いから、お断りだけど」
「まあまあ、そう言わんと〜」
「結婚。ドキ!タラつぶすよ」
「・・・」
〜回想終了〜
私はこめかみを押さえた。心なしか頭痛がする。
「あのさ、これのどこが」
「立派なプロポーズやろ?」
謙也は胸を張って言った。
「どこがだよ!!だいたい私のセリフ、思いっきり切るトコ間違ってるだけじゃん!!」
正しくは『けっ、今度来たらつぶすよ』だ。
「何言うてんねん!意訳すると
『結婚?ドキドキしちゃう!結婚式のメインディッシュはタラ料理にするわ』
ってなるやんけ!!」
「こじつけもいいとこだろうが!!」
「〜、んな照れんでもええから」
「照れてねーよ!!自分に都合のいい解釈をするな!」
「まぁまぁ、血圧上がってまうで?」
「誰が上げてると思ってんだよ!」
さらに文句を言おうとした私の口にけんちゃんがさっと近づいた。
そのまま唇に押しつけられる。
「奪っちゃったー♪」
某緑茶のCMのパンダとお姉さんも真っ青な満面の笑顔で謙也は言った。
「・・・・・・!?!?!?」
でも私はそれどころじゃない。人形が、人形が、人形が私の唇にっ
そんな私の危機的な状況を知ってか知らずか謙也はとどめを刺そうとする。
「ん?何何?けんちゃんじゃ物足りない?そうか、じゃ次は食い倒れ人形持ってこよか?」
「いやーーーーーっ!」
「冗談やんか。自分、ほんまおもろいわー」
「謙也、祟るよ・・・?」
謙也はふと真面目な顔になって、言った。
「なぁ、。オレ、となら結婚してもええんやけど・・・」
「謙也?」
「人形怖がるトコも、ドジで車に轢かれかけるトコも、実はこんなキャラ立ちしてしまっていいんだろうかと悩んでるトコもみんな好きや。
は、オレじゃ駄目か?」
いきなりの告白に私は戸惑った。さっきまでバカなことをやっていたことが嘘のようだ。
私の沈黙を「ノー」と受け取ったのか、謙也は付け加えた。
「まぁ、いきなり言われたら驚くわな。オレ、テニスで全国大会行くねん。
返事は帰ってきてからでええから、じっくり考えてぇな」
「待たない」
謙也、私の答えはもう決まってるよ。
「私は、謙也が好き。全国行って帰ってきて、私より好きな子ができちゃったら困るから
今言うよ。好き」
「オレ、そんな浮気者っぽく見えるんか?」
「常日頃の言動が、そんな感じ」
いつもの私たち。距離が縮まったように感じるのは、気のせいじゃない。
全国大会会場・・・
「謙也、どないしたん?」
「不足で死にそうやわ〜。来る前にキスのひとつでもしてくればよかった・・・」
「「キス!?」」
「けんちゃん抜きでな」
謙也はあの後の出来事を思い出す。
『キスしてもいいけど、もうけんちゃん持ってこないで!!』
「ホンマ可愛いいんやからなぁ」
そしてあることを思いつく。
「キス以上やったら、けんちゃん持ってってもええんかな・・・」
その場で別れ話を持ち出されることを懸念した謙也は思い直す。
「やっぱやめや」
・・・ずっと一緒にいたいから
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